ミュージカル 死神

落語の「死神」をミュージカルに

ボクもこの十五年間を思い出してみると、ずい分バカな男である。
ミュージカルと名がつけば、舞台でもTVでも映画でも、ラジオでもすぐ飛びついて、作曲してきた。作曲料その他はまったく関係なく、ミュージカルこそ自分の仕事と思いこみ、ガムシャラに作ってきた。もうすでに四十本もあろうか……。自分でプロジュースしたものも、十数本、これも何百万という赤字を出しながら、意地になって取組んできた。
今になってフト思い起こしてみて、一体それは何の為であったか、少しは得をしたのかと考えてみると、何にも残っていないことに気がつく。
しかし、その中のいくつかの歌は、ヒットしたり、皆に歌われてきた。それがボクのメリットであったかも知れない。
「見上げてごらん夜の星を」
「夜明けの歌」
「希望」
皆ミュージカルか、ショウの中からの作品である。
ボクは、ミュージカルの作曲をしているときに不思議に曲想がわいてくる。自由な発想がわいてくる。
この「死神」からも「夜が終る時」という曲が生まれた。この曲は、ぼくのいくつかのヒットアルバムに残る曲であることを信じている。
今徹夜をしながら「死神」の曲を作り直している時に素晴らしいニュースを聞いた。
今年の七月から、ボクの処女ミュージカル「見上げてごらん、夜の星を」が再演されることに定ったのだ。
この「死神」も去年の五十回公演から再演されて新たに四十回の公演をする。
「見上げてごらん、夜の星を」も今年の再演で四回目の再演になる。
日本のミュージカルも、このように何回となく再演されることによって定着して行くのだろう。
ボクがミュージカルに対して気狂いのように仕事するのは、この再演が楽しくて仕方がないからである。
他人から何といわれようと、毎年一つ或いは二つのミュージカルを死ぬまで作って行きたい。(いずみたく/1973 再演のプログラムより)

あらすじ  妻・楠トシエのしりにひかれっぱなしのダメな男ーー葬儀屋・西村晃が、ある日、死神のピンキーに誘われて死者を生き返らせる術を知るが、一回生き返らせるごとにセクシーな死神を楽しませなければならないという契約を結ぶ。
ききめはたちまち現われ、葬儀屋変じて回生屋、一躍、天下の名医となる。金は使いきれないほどもうかるし、尊敬される。ところが……後半、助けた人間が公害の加害者、独裁者、ヤクザになり、やり切れない心境になった西村が死神の計略にかかったと知る。もっとも死神といってもピンキーは単なる手先だし、本人は西村に首ったけ、命令と愛情の板ばさみになる。しかし西村は反発、ピンキーの手ではどうにもならなくなったとき、蘇生してヤクザになった笈田敏夫の手で死に追いやられる。
生死の境をさまよう西村をピンキーは助けようとするがすでに遅い。そして……。
藤田敏雄、いずみ・たくの名コンビが、ブロードウェイに挑戦する大爆笑ミュージカル!!
異色な素材……このミュージカルは、グリム童話から、三遊亭圓朝が落語「死神」にしたものを素材にしています。71年NHKテレビで今村昌平がオペラ化し、ザルツブルク祭TVオペラ賞を受賞し話題になりました。その原作にほれ込んだ西村晃が持ち込んで脚本・藤田敏雄、音楽・いずみ・たくの名コンビが型やぶりのミュージカルに仕上げたのです。(1973年 再演のチラシより)

公演概要